洒落たレストランでドリアを食べた後、僕は彼女と通りを歩いていた。
(またこの店に来てもいいな、と思ったから、ほうれん草が入ったドリアは美味しかったらしい)
天気のいい昼下がりで、日曜みたいな風景。
通りの幅は広めで、まばらな並木道だった。
お店はいくつかあるようだったが、人通りもまばらだった。
この日は久々に寄ってもいいかと思ったので、水の中の本屋に寄る事にした。
(一人だったら行かないだろうと思ったので、あまり気が進む場所じゃないのかもしれない)
澄んでるとも濁ってるとも言えないような水の中で、一面さらさらした感じの砂底の道を歩いていく。
向かいから大きなウミヘビがやってきてすれ違ったから、もしかしたら海なのかもしれない。
魚はそんなに見当たらなかった。空を見上げると、水面の波紋が太陽の光をキラキラさせていた。
水面はかなり高い。普段通り呼吸はしているが、気泡がコポコポと浮いていくわけでもない。
前に進むにつれて深く暗くなってなっていく。
本屋の中に入ると水は無くて、内装はロッジ風。
濃い茶色の木で組まれた普通の本屋だ。
大判の書籍が多い。
いつも本屋をまわる感じで、背表紙を眺めながら店内をぐるりとまわった。
「水の中にある本屋の本」というタイトルの本を見つけた。
(「お、あった。」と思ったし、この本はこの「水の中にある本屋」にしか置いてないという認識もあった。水の外にある本屋には置いてないらしい)
いつも大判本を手に取ってみる感じで、そんなに興味もなくパラパラとページをめくって棚に戻した。
店の奥は古本のコーナーになっていた。
ランチを食べたお店の通りに戻って、ゆるやかな上り坂を歩く。
さっきは気がつかなかったが一軒隣にも飲食店がある。
入り口にはブラインドカーテンが下がってるが、中で白い調理服の人が数人動いているのがわかる。ディナータイムの準備中といった様子だ。
僕はブラインドをよけてガラス戸を数回たたいた。
中から(僕が話しかけたかったらしい、でも見たことない)シェフがでてきた。
小柄で小太りで、やたらコック帽の高いシェフが、ガラス越しに口をパクパクさせて何か言っている。が、聞こえないのでわからない。店の奥からは大型のエンジン音みたいなのがずっと響いてる。
「また来いよ!」
どうやらそう言ってる。
僕は来た覚えもないが、「いや、今小倉に住んでるんでなかなか来れないんですよ!」と大声で叫び返している。「北九州です、北九州!」
どうやらここは福岡らしい。
声は聞こえてないだろうけど、何となく言いたいことは伝わったらしく、「プシュッ」と少しだけガラス窓がズレて開いた。
少ししか開かないタイプの窓らしく(少しでも開くならさっさと開けて欲しかったとも思ったが、開いても奥からの轟音で何も聞こえない)、その隙間から焼きたての赤みがかったパンをちぎってくれた。
「美味しいやろ!」
どうやらそう言っている。
「美味しいです!また来ます!」
と言ってその場を離れた。
パンは確かに美味しかった。
◆◆◆
カントの左。
それでは、
ゴキゲン、
うるわしゅう。

